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賢者タイムがやってきました。――『運命の転機は三十歳でした。』SS

「――……ッ」
荒く大きな呼吸をひとつ。多岐川の中から退いて、力尽きたように東元が覆い被さってくる。全身でその重みを受け止めることになり、多岐川は「うぇっ」とも「ぐぇっ」ともつかない濁音を喉の奥から押し出した。
「ちょっ……どけ、重い!」
「透」
肩で息をつきながら、東元はおかまいなしに多岐川を抱き締めてくる。多岐川の額に張り付いた髪を掻き上げ、まじまじと顔を覗き込む。
「起きてるな」
確認するように言われ、多岐川はにっと笑った。
「おかげさまで」
つきあいはじめて四ヵ月。幾度となくからだを重ねたが、多岐川がコトのあとまで意識を保っていたのは今回がはじめてだ。取り立てて乱暴にされているわけではないが、とにもかくにも一般的ではない東元の巨きさのせいで、一度始めたが最後、前後不覚のまま気をやってしまうのがいつものパターンである。
多岐川としては、べつにそれでもかまわない。多少男の矜持が傷つけられている気もするが、受け身に甘んじている時点で今更だ。
だが、いつも一人で取り残される東元のほうはさみしかったらしい。「今日は丁寧にする」と宣言し、実際そのとおりにされた。おかげで、初めて二人の「事後」というやつを体験している。
「透……」
薄明かりの中、相手の瞳に映る自分がはっきり見えるほど間近から顔を覗き込み、東元が唇を寄せてきた。思わずブッと噴き出してしまう。
「なに雰囲気出してんだ」
笑いながら、キスしようとする東元の口許を手でふさぎ、押し返した。
「とおる?」
多岐川の手に口を覆われたまま、東元は不満そうにもごもごと文句を言っている。多岐川は色気のない笑いを浮かべたまま、ぐいっと東元のからだを押しやった。
「いいかげん、おれの上からどけ。重い」
「……意識がないよりひどいな」
恨み言に、「うるさい」と一睨み。ぷいっと顔をそむけたが、なにしろ至近距離だ。顔が赤いのはばれているかもしれない。ちっと鋭く舌を打った。
(くっそ、なんだこれ。勘弁しろ)
恥ずかしい。とにかく気恥ずかしい。いつものように一度意識が途切れると、気分も多少リセットされていたのだが、意識があるばかりに思いがけず盛大な賢者タイムがやってきてしまった。
髪から足までありとあらゆる体液でぐっちゃぐちゃ、正面から抱きつかれて密着した肌はどこもかしこもいやらしくぬめるし、甘えるように擦りつけられる下肢からはあられもない水音が聞こえてくる。しかも、重い。硬い。やわらかくない。さっきまで男の象徴を突っ込まれていたのに今更すぎるが、改めて「男だな」と思う。多岐川を押し潰さんばかりにのしかかり、ぎゅうぎゅう抱き締めてきている相手は十二年来の腐れ縁の友人だという、この事実!
「……ホント何やってんだろうな、俺たち……」
「透?」
名前を呼ぶ東元の声色が変わった。ちょっと怒っている。まあ、無理もない。女だったら引っぱたかれているところだ。
「どうした。よくなかったか?」
「いや、よかったけど」
ことさら丁寧に、じれったいほどやさしくされるセックスは、いつも以上に多岐川の羞恥と興奮を煽った。
そもそも情熱と体力にあかしてがっつくような年ではない。にもかかわらず、じわじわと高められる情欲におぼれ、「早く」と急かしたのも多岐川なら、「奥まで来いよ」とねだったのも、「動いて」と泣いたのも、最終的に自分から腰を振ってあんあん喘いだのも多岐川である。
思い返すにつけ、よけいに賢者モードがひどくなり、多岐川は頭を抱えた。
(なんか、思ってた以上にみっともねぇな、おれ!?)
「後悔してるのか?」
東元の声がいっそう低くなる。ひやりとするような口調に身を案じた多岐川は、なだめるように彼の背を叩いた。「ねぇよ」と答える。
「けど、十二年も友達やってた相手に何やってんだろうって、我にかえる瞬間ってないか?」
「ないな」
東元はあっさりと否定した。
「むしろ、十二年も何もなくても一緒にいられるほどだったんだ。友情から地続きに、こういうことをしたいと思うようになっても不思議はないと思う」
「あー……、そうか」
そういえばそうだった。東元のほうは、ほぼ最初から多岐川が恋愛対象に入っていたのだ。なら、今多岐川が抱いてるような気恥ずかしさというか、いたたまれなさのようなものは、なくて当然かもしれない。
(けど……)
それはそれでさみしいような気分になるのは、勝手すぎるだろうか。
「……なあ。おまえ、おれのこと、友達だと思ってた?」
つい感傷的な気分になり、そうきいた。彼はけげんそうな表情になった。
「今でも思ってるぞ?」
「あ、そう?」
「恋人になったからといって、友人をやめなくてはいけないわけじゃないだろ」
「それは、まあ」
「恋人の透はかわいくて抱きたくなるし、友人の透を抱くのは興奮する」
サディスティックな顔を覗かせて、東元は色っぽく笑った。
「透はどうなんだ? 本当に後悔はしていないか?」
もう一度きかれる。「してないって」と即答した。
「けど、する気にならないから、すげぇなとは思ってるぜ。若干」
「すごい?」
「友達のおまえとこういうことしたいってすごくないか? おれ、今でも自分でびっくりするんだけど。小山とかとエッチしたいとか、絶対思わねぇもん」
多岐川がそう言うと、東元は一瞬おし黙った。かと思うと、ひどくしあわせそうに口角を上げ、にっこりと笑う。
「……つまり、それだけ俺に惚れてるということだな?」
向き合った彼が腰を揺すると、ごりっと下肢に硬いものが触れる。
ん? と多岐川は首をかしげ、すぐにそれが何か、思い至った。
「おまっ……、あっ、ちょっ、何して……っ!?」
「そこまで言われたら、期待に応じないわけにはいかないだろ」
「違う! ちがう……って、あっ、クソ、待てって……っ」
多岐川の腰をがっちり抱え直した東元が、腰を深く沈めてくる。
自分のうかつさを脳内で詰りながら、多岐川は今度こそ正気を失う快感に巻き込まれていった。
2017-01-26
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